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Channel: flora world
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■flora World299「銀木犀/あなたの気を引く」

彼は、本当におとなしい男の子だった。 子どもはうるさいもの、走り回るもの、いうことを全然聞かないもの。赴任する前に散々聞かされていた多くの話は、少なくとも彼には全く当てはまらなかった。何かを壊したこともなかったし、休み時間でさえ大きな声を出すようなことは一度もなかった。 彼は私が勤めていた民間学童施設のヘビーユーザーだった。...

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■flora World300「幽霊花/想うは貴方ひとり」

彼岸を過ぎて数日、ようやくとれた休みを使って温泉に行くことにした。 都内では正月も盆もない。まして、サービス業ならなおさらだ。...

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■flora World301「風船唐綿/おおきなゆめ」

約束をしていた友人が体調を崩し、予定がぽかんと空いてしまった。久しぶりに飲もうと約束していたのだったが、仕方ない。この年齢になると急なキャンセルもよくあることだ。 家に帰ってもよかったのだが、外に出たいという気持ちもあってそのまま外に出ることにした。...

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■flora World302「紅葉/大切な思い出」

懐かしい夢を見た。まだ子供のころ、ほんの小さかった頃の夢だ。 「おねえちゃんは綺麗で、妹さんは元気でいいわねえ」 私は姉と手をつなぎ、そんな言葉を母に投げかける女の人の足元を見ている。足元しか見えないのに、その女の人が誰なのかを私は確かに知っている。叔母か、幼稚園の先生か、近所の人。靴はそれぞれに違うけれど、夢の中では確信をもって、この人は誰それだと思いながら靴を睨む。...

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■flora World303「枇杷/あなたに打ち明ける」

――また、ダメだったか。 ため息をついてウィンドウを一つ閉じる。新着メッセージを知らせていたアイコンは全て既読を示すブルーに変わり、変わってスクロールバーの近くに新着会員を知らせる広告が表示された。条件の近い会員をマッチングして表示させているというが、本当のところは分からない。その証拠に、ここに表示されてきた会員と継続して連絡を取れた試しはなかった。...

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■flora World304「シクラメン/内気」

久しぶりにドアを開けると、冬の冷気が足元から這い上ってきた。慌てて部屋に戻り、厚手のパーカーをクローゼットから探す。一週間前はまだまだ暖かったのに、となんだか裏切られたような気がした。...

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■flora World305「山茶花/困難に打ち克つ」

はっ、はっ、はっ、と一足ごとに自分の吐く息が白くけぶる。 細くうねる山道は見通しが悪く、出発の時よりも明らかに足が重たくなっているのが分かった。あと少し。もう少し。自分を叱咤するように、僕はナップザックを背負いなおした。...

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■flora World306「センリョウ/富」

お疲れ様でした、と忘年会で赤ら顔の社長が一本締めをしていたのは先週の金曜日。これで仕事納め……となれば万々歳だったのだが、この土日で急に出勤を求められた。年始の営業前にどうしても納品してほしい品があると担当顧客から泣きつかれたのだ。帰省する予定もなく家族サービスをする必要もない身としては引き受けざるを得ない。...

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■flora World307「松/向上心」

駅からの帰宅路に、小さな商店街がある。いかにも昔ながらという感じの鄙びた街並みなのだけれど、それだけにファンも多いらしい。夕方はかなりの人出で、総菜屋など威勢の良い呼び込みの声も飛び交って賑わっている――ということを、わたしはつい最近知った。...

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■flora World308「ナズナ/あなたに捧げる」

ずっと、「オンナノコ」が嫌いだった。 同性のくせに、同性だからこそ、嫌いだった。過剰にかわいらしさをアピールするような淡い色のスカートやブラウス、媚びたような声のトーン、赤ちゃんを真似したような目を強調したアイメイク。甘ったるい香水の匂いも集団でつるまなければ何も出来ないようなところも、本当に嫌で嫌で仕方なかった。 でも、一番嫌だったのは、結局はそういう女が得をすることだ。...

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■flora World309「カラスノエンドウ/未来の幸せ」

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■flora World310「馬酔木/犠牲」

給湯室に入っていった瞬間、ざわめきが収まった。いつものことだ。そそくさと目礼して狭い入り口を同僚たちが通り抜けていく。押し殺したような笑い声が、今度は廊下から聞こえた。 こんな状態になって、もうすぐ1か月になる。 ……いじめ、と言えばいじめなのかもしれない。けれど、私はこの生活にも慣れつつあった。...

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■flora World311「沈丁花/永遠」

故郷へ向かうために、久しぶりに車を運転した。おっかなびっくり踏み込んだアクセルは思いのほか重くて、慣れない道をナビにしたがっていくつも曲がり、高速に乗る。ラジオをつけていない車内は静かで、時折ナイロンの包みが擦れて小さな音を立てた。助手席に乗せてある、姪へのプレゼント。今年十二歳になった彼女は母親に似たぶっきらぼうな口調で、定期を入れるパスケースが欲しいのだとねだってきていた。...

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■flora World312「雪柳/自由」

終わりは、あっけなかった。はじまりの仰々しさに比べ、離婚は紙切れ一枚で済む。もめごとの素となるほどの財産もなく、子どもも幸いなことにまだおらず、私たちは静かに二人の生活を終えて離婚届を提出すると、それぞれの日常を再開した。...

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■flora World313「君子蘭/誠実なひと」

僕らにとって、4月はめまぐるしいほどの変化の季節だ。入卒の時期でもあるし、クラス替えもある。今年は担任も含めての持ち上がりだから去年よりはましだけど、それでもいままではひとつだった階段をふたつ昇って教室に入るのはなんだか変な気分がした。...

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■flora World314「山法師/友情」

新宿西口のコンコースを抜けて、地上階ゆきのエスカレーターに乗っているとき、久しぶりに彼とすれ違った。手元のスマホをいじったまま、私に気付くことなく彼はエスカレーターで地下のフロアへ運ばれていく。彼は俯き加減の姿勢のままで、振り向かずに賑やかな光の中へ消えていった。...

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■flora World315「白丁花/純愛」

みどりちゃんが、先輩と別れた。久しぶりに一緒に帰ろうって誘われたのは、どうやらそれが理由だったらしい。アスファルトも溶けてしまいそうな暑さのなか、私たちはコンビニでアイスを一つずつ買って、三か月前は毎日のように来た公園に向かった。 「先輩ね。好きな子、出来たんだって。だから別れてほしいんだって」...

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■flora World316「すみれ/小さなしあわせ」

散歩から帰る道すがら、わたしは初めてそのケーキショップでケーキを買った。チーズケーキと、フルーツタルトを一つずつ。いつもガラス越しに見ていたショーケースを店内で覗くのは、なんだか不思議な感じがした。そして、なんだかふわふわした気持ちで、ケーキが倒れないように、いつもより慎重に慣れた道を戻った。...

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■flora World317「あじさい/辛抱強い愛情」

つむじ風みたいだ、と思った瞬間には通り過ぎていた。見知らぬ子どもたちだ。男の子と女の子、ゴムまりのような身体はすぐに見えなくなって、残響のように笑い声だけが耳に残る。 うちの子たちも、あんな感じだったのだろうか。 自分たちだけで世界の全部が満ち足りているかのような顔をして、元気がぱんぱんに詰まったような手足を振り回して、高らかに笑って。そうだといいと思う。そうであって欲しかった。...

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■flora World318「木槿/信念」

  美しくなりたい、と思わずにいられる女はいったいどれだけいるのだろう。たとえば女優のように整った顔で、モデルのようにスレンダーな体型だったらと願わずにいられるような女は。いるとしたら、既にそれを手にしている存在なのではないかとわたしは思う。...

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